津地方裁判所 昭和38年(ワ)168号 判決 1965年4月01日
原告 清水清明
被告 三桝紡績株式会社
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
原告訴訟代理人等は「被告会社の昭和三八年一一月二九日の第三一期定時株主総会における上田九一を取締役に選任する旨の決議を取り消す。」との判決を求め、
被告訴訟代理人等は、主文同旨の判決を求めた。
第二原告の主張
一、原告は、被告会社の株式五、一〇〇株を有するほか、訴外亡清水千代二郎(以下「亡千代二郎」という。)の相続人で、同人名義であつた被告会社株式三〇万四、七六五株の議決権を行使する旨を届け出ている株主で、昭和三八年一一月二九日第三一期定時株主総会(以下「本件総会」という。)の取締役三名選任のため累積投票により最多得票者として取締役に選任された者である。
その選任決議のための累積投票の経過は次のとおりである。
本件総会は、従前の被告会社の取締役であつた訴外広瀬英利、同上田九一、同所司金次郎、同星野泰助の四名全員の任期満了に伴い同日被告会社の発行済株式総数一五〇万株の四分の一以上にあたる原告外一五名(株式総数四一万四、四七五株)の株主から商法第二五六条の三所定の累積投票の請求がなされ、右請求に基き本件総会において取締役選任の累積投票が施行された。
右総会の議長は訴外広瀬英利(従来の代表取締役)であり、取締役に選任さるべき員数は三名のところ、立候補者は原告、前記訴外星野、広瀬、上田、所司の五名であつた。そして開票の結果、議長広瀬は、原告が訴外星野に投票した九一万四、二九五個の投票を無効とし、別紙<省略>累積投票結果表記載のとおり候補者別の有効票数を認定し、当選者を原告(有効票数一一五万六、四二五個)、訴外広瀬英利(同九八万八、七七六個)、訴外上田九一(同九八万八、七七四個)とし、訴外星野泰助は有効票数二三万四、九〇〇個で前記の者より後順位にあるとして落選者とされた。
二、しかしながら右決議については、次のようなかしがある。
1、原告は、訴外溝口花子、同米倉静栄、同清水英一とともに亡千代二郎から昭和三三年九月三〇日付で亡千代二郎より財団法人清水育英会設立準備委員長広瀬英利(以下委員長という。)に名義書換された被告会社の株式三〇万四、七六五株(以下本件株式という。右名義書換が違法である理由は后記のとおり。)を共同相続してこれを共有している者であるが、本件株式の内一〇万四、七六五株については同三四年九月二五日、残余二〇万株については同三六年五月二〇日右共同相続人等の合意によりそれぞれその株主権を行使すべき代表者に選定されたので、被告会社に対してその旨を届け出るとともに、本件株式につき右四名の共有名義に書換方を請求した(株券はすでに被告会社の占有するところであるから、これが呈示は不要である。)。従つて被告会社は右請求に応じ、株主名簿の記載につき直ちに委員長名義を抹消し、原告ら四名の共有株主名義とすべきであるのに被告会社は不当にも右名義書換を拒否した。
右のように被告会社は本件株式についての名義書換を不当に拒否しているから、原告らは被告会社に対し本件株式の真正な権利者として株主名簿の記載の有無にかかわらずその権利を主張し、適法に議決権を行使し得るのである。
2、以下被告会社の前記拒否が不当である理由を詳述する。
(一) およそ株式会社は、株主より名義書換請求を受けた場合には、少くともその形式的資格について審査する義務を負うものであるから、株券の真正、裏書の連続或いは有効な譲渡証書の添付、名義書換権限の存在、名義書換請求書その他の必要書類についてかしの有無を審査しなければならない。
(二) ところで被告会社は、昭和三一年一月一三日付の訴外広瀬英利、同辻井正之等を遺言執行者に指定し財団法人清水育英会を設立して本件株式全部をその基本財産に充てる旨の寄附行為(以下「遺言寄附行為」という。その内容は別紙第一記載のとおり)を記載した亡千代二郎の遺言公正証書、右財団法人設立まで本件株式全部を委員長名義とする旨の委員長名義の決議書および本件株式名義書換請求書によつて、前記1の如く本件株式全部の名義を亡千代二郎から委員長のそれに書き換えている。
(三) しかしながら仮に遺言寄附行為が有効であるとしても、右(二)掲記の書類だけでは本件株式の名義書換の形式的要件を欠いていることは明白である。
(四) また亡千代二郎は、遺言寄附行為後日頃尊敬せる訴外伊藤忠兵衛からむしろ生前に育英財団を設立することを勧められ、ここに財団法人清水育英会の設立を取り止めて新たにこれと同一目的をもつ財団法人三桝育英会の設立を企図し、本件株式中二〇万株および現金二〇万円をその基本財産に充てる旨の寄附行為(以下「生前処分」という。その内容は別紙第二記載のとおり)をなし、右財団法人三桝育英会設立許可申請書を文部省に提出した。よつてこれと抵触する遺言寄附行為は、右生前処分によつて取り消されたことになる。従つて遺言寄附行為に基きその遺言の執行としてなされた本件株式の前記のような委員長名義の書換手続は実体上からも無効というべきであり、本件株式はすべて亡千代二郎の相続人である原告らの共有というべきである。
(五) しかして被告会社の代表取締役広瀬英利、同取締役辻井正之は、先の遺言に立会するとともに、生前処分にも三桝育英会の理事予定者として参画し、亡千代二郎の真意ならびに両寄附行為の由来を熟知していたのであるから、遺言寄附行為が取り消されたことを当然知つていたものというべく、それにもかかわらず訴外広瀬らは遺言寄附行為による遺言執行者に就任し、前記のように本件株式の名義書換請求を自己が代表者である被告会社に請求し、被告会社をして前記のように名義書換手続を了せしめたのである。
(六) よつて被告会社は、いずれにしても本件株式を委員長名義とした前記名義書換について請求者が実体上の権利のない者であることを熟知しながらあえて名義書換した点において悪意または重大な過失があるといわなければならない。そしてこれを本件株式の真正な権利者である原告らより見れば原告らのした原告ら共有名義への書換手続の請求を被告会社が拒否したのは、原告らが真正な権利者であることを熟知しながらあえて前記のように悪意又は重大な過失により委員長名義に書き換え手続をなし、これに藉口して拒否したものというべきであり、右拒否にも同じく悪意又は重大な過失ありというべく、右拒否は不当なものと言つて差し支えなかろう。このように会社が真正な株主に対し悪意又は重大な過失により名義書換を拒否しているときは真正な株主は前述のように株主名簿の記載がなくても株主たる権利を主張し、その議決権を行使し得るものというべきである(およそ株式会社は株主甲から乙に名義書換をしたが株式の譲渡が無効である場合にその点の調査に手抜かりがあつたため甲に対し株主資格を否定できないときには、なお甲に名義書換を経ないで議決権を行使させても差し支えないし、また行使させなければならない。「ジリスト選書株主総会六五頁」)
3、従つて原告は、前記1の如く本件株式について共同相続人の代表者としてその株主権を行使できる者というべく、原告は本件総会の取締役三名選任決議における累積投票にあたり名義書換がないまま本件株式の議決権を行使し、立候補者星野泰助のために九一万四、二九五票を投じた。右投票を有効とすれば、各立候補者の有効票数は原告一一五万六、四二五個、星野泰助一一四万九、一九五個、広瀬英利九八万八、七七六個、上田九一、九八万八、七七四個、所司金次郎五〇〇個となり、右星野が第二位で取締役に当選し、右上田が第四位で落選したことになることは別紙累積投票結果表に原告が訴外星野に投票した投票個数を加算すれば自ら明白である。しかるに被告会社の代表取締役議長広瀬英利は、原告の議決権行使を否定し、右星野に対する投票全部を無効としたため、星野は二三万四、九〇〇個で第四位となつて落選し、代りに上田が第三位に上つて当選者となつた。
三、よつて本件総会決議中訴外上田を取締役に選任した決議部分は前記の如く原告の有効な議決権の行使を無効とした点において決議の方法が法令に違反しているから、これを取り消す旨の裁判を求める。
四、被告の各主張事実を否認する。
第三被告の主張
一、原告主張の一の事実は認める。
二、原告主張二1の事実中、原告主張の各日時頃本件株式の名義が委員長名義に書き換えられたこと、右株式につき原告を代表者とする原告主張の如き名義書換請求があつたこと、原告が亡千代二郎の相続人であることは認めるが、その余の事実を否認する。
三、原告主張二2の事実中、委員長名義に名義書換をするに際し(二)掲記の各書類が被告会社に提出されたこと、本件遺言公正証書が原告主張の如き内容を有すること、亡千代二郎が伊藤忠兵衛から原告主張の如き勧めを受けたこと、本件生前処分における基本財産が被告会社の株式二〇万株と現金二〇万円であつたこと、被告会社の代表取締役広瀬英利、取締役辻井正之が亡千代二郎の遺言に立会し、三桝育英会の理事予定者であること、亡千代二郎が三桝育英会設立許可申請書を文部省に提出したことは認めるが、その余の事実を否認する。
四、原告主張二3の事実中、原告がその主張の如き投票をなしたが被告会社がこれを無効としたためその主張の如き結果を生じたことは認めるが、その余の事実を否認する。
五、原告主張三の事実は争う。
六、会社関係処理の技術的要請に基き、法は名義書換がない限り、実質的な権利者といえども会社に対する関係においては株主たることを主張しえないものとしているのであるから、たとえ実質的な権利者であることを証明しても、名義書換がない限り株主としての権利を行使しえないことは当然である。従つて原告の本訴請求は、遺言寄附行為の有効、無効を論ずるまでもなく失当である。
七、また亡千代二郎がなした遺言寄附行為の真の目的は、自己の子供(原告等四名)が事業の後継者として適任でないことを憂い、ひとえに死後における、被告会社の安泰と発展を祈念して本件株式を基本財産とする清水育英会を設立することにより所有株の相続による散逸を防ぎもつて創立以来の努力の結晶たる被告会社の健全な隆昌を企図したものであつて、育英事業の点は、右目的のための副次的なものにすぎなかつたのである。しかして亡千代二郎は、財団法人はあくまで死後遺言によつて作るという意思を終始失わなかつたのであり、だからこそ伊藤忠兵衛の強い勧めに困惑し、やむを得ず三桝育英会の設立許可申請手続をとることになつたけれども、本件遺言公正証書作成の際に公証人からこの遺言を取消、変更するには別の遺言が必要であると教えられていたので、右遺言はそのまま取り消すことなく、いわが右遺言と競合的に、一応右申請に着手したのである。そこでその後右申請書類一切が補正のため文部省から返戻されるに及んで、もともと不本意であつた右申請を取り止めることとし、あとは予定通り右遺言により前記目的を実現しようとしたのである。従つて生前右申請手続に着手した一事をもつて遺言が無効となれば全く故人の意思に反することになる。よつて右申請手続の着手は、遺言寄附行為と抵触するものでないから、遺言寄附行為を無効にするものではない。なおこのことは法務省特別顧問、我妻栄、元東北大教授中川善之助、東大教授川島武宣の各氏の鑑定によつても明らかである。
第四立証<省略>
理由
一、原告主張の第一項の事実はすべて当事者間に争がなく、また本件株式が亡清水千代二郎の所有であり、亡千代二郎のした遺言寄附行為に基き、遺言公正証書と原告主張のとおりの清水育英会設立準備委員長広瀬英利名義の決議書と右委員長名義の株式書換請求書により被告会社は、右株式の名義を設立準備委員長名義に書き換えたこと、一方亡千代二郎は右遺言寄附行為をした後に本件生前処分をなし、原告は右生前処分により右遺言寄附行為は取り消され、従つて当然に右遺言による寄附行為の目的財産である本件株式はすべて原告ら四名の相続人の共有に属するに至つたとして、相続人四名のうち訴外溝口、同米倉及び原告三名の合意により原告主張の日ごろ右設立準備委員長名義の本件株式を原告ら四名の共有名義に書き換えることを被告会社に請求すると共に、原告がその議決権を行使すべき代表者に選任された旨を被告会社に届出たが、被告会社は右名義書換請求を拒否したこと、本件総会において原告は本件株式につき名義書換のないままその議決権を行使し、訴外星野に全部投票したが議長広瀬はこれを無効として有効得票に算入せず、そのため前記のような選任決議がなされるに至つたこと、以上の事実もまた当事者間に争がない。
そして本件株式による原告の議決権行使が有効とされた場合、言い換えればこれを無効とした議長広瀬の認定が違法である場合は原告主張のとおりの当選順位の変動が生ずることは算数上明らかである。
二、よつて本件株式による原告の議決権行使の効力につき以下審按する。
商法第二〇六条第一項は記名株式の権利移転につき株主名簿にその旨が記載されることを以つて会社に対する対抗要件とする旨規定しているが、これは株主の権利が継続的且つ反覆的に行使されること、集団的に行使されること(株主の持株数に量的な差異はあるにせよ、内容において全く同じものが同時に且つ多数の者によつて行使される。)しかも絶えず変動する株主によつて行使されるという株主の権利行使の実態に対応するための技術的処理として株主名簿の記載により会社と株主との関係を画一的に処理しようという意図に出たものに外ならない。
従つて株式につき実質的権利を有する者も株主名簿に記載されるまでは会社に対し株主としての権利を主張することはできず、また株主としての権利の行使もできないことになるわけであるが、この理は絶対的なものではなく、会社が株主の名義書換請求を不当に(正当な事由なく)拒絶しているような場合は株主名簿の記載がなくとも株主たることを主張し、且つ株主としての権利を行使し得ると解すべきである。蓋し右のような場合までも先に述べた理を貫ぬくとすれば、会社が自ら名義書換義務を懈怠しながらその責を相手方たる真実の権利者に帰せしめる結果となり、これは株主の権利関係の画一的処理という技術的要請に藉口し、その実会社の恣意を許すことになり、真実の権利者の保護に著しく欠けるものというべきであるからである。
そして右にいう不当な拒絶とは、その名義書換請求者が客観的に見て実質的権利を有する場合に、そのことを知りながら(悪意)ないし重大な過失により会社がそのことを知らずに、その者に実質的権利なしとして拒否した場合を指すと解するのが相当であり、これを反面から言えば、会社はいわゆる形式的資格を有する者からの名義書換請求に対し、名義書換をなせば、たとえその者が客観的に見て実質的権利を有しない場合であつても、会社がそのことを容易に証明して拒絶できるのに悪意又は重大な過失によりこれをしないで名義書換に応じたという特別な場合を除いては会社はすべて免責されることになる。
三、以下この見地に立つて本件を見るに遺言寄附行為により訴外広瀬は前記のとおり遺言執行者に指定されたのであるから、訴外広瀬は右遺言寄附行為が有効に存続する限り、遺言執行者として遺言による寄附行為の目的財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することはもちろんであるから、右広瀬が遺言執行者として本件株式を基本財産として清水育英会を設立する旨の亡千代二郎の遺言に基き財団設立許可申請をした上、その設立準備のための準備委員会を組織し、設立中の財団の機関としての働きをさせ、同委員会に本件株式を引渡し、且つ同委員長名義に名義書換をなすべきことを被告会社に請求することも本件遺言の執行のための必要な行為であつて、遺言執行者の権限の範囲に属する適法な行為というべきであろう。
そして右名義書換請求につき訴外広瀬は原告主張のとおりの書類を被告会社に提出したことは当事者間に争いがなく、右事実によれば右書換請求には形式上の不備も存しないから、遺言寄附行為が有効に存続している限りにおいては、被告会社が右広瀬の名義書換請求に応じたことについては何らのかしも存しないことは明らかである。
しかして遺言寄附行為が生前処分により取り消されたかどうかという右遺言寄附行為の実体法上の効力については、原告と被告会社ないし訴外広瀬との間には根本的に見解の相違が存し、遺言寄附行為の効力についての最終的な訴訟的解決は、少くとも本件総会当時においてはいまだなされていなかつたことは顕著な事実である。そして遺言寄附行為が生前処分によつて取り消されたかどうかという問題は訴訟的解決を待たなければ、その当否は自明であるという問題とは言えないのであつて、被告会社ないし訴外広瀬が本件総会当時遺言寄附行為は生前処分のなされた後においてもいぜん有効であると考えたとしても右のような考えの客観的当否は別として、右のように考えたこと自体を目して原告が実質的権利者であること言い換えれば生前処分により遺言寄附行為が取り消されたことを容易に知り得るにかかわらず悪意又は重大な過失によりこれを知らなかつた結果であると即断することは到底できない。
してみると、被告会社が遺言執行者でもなく、本件株式の所持人でもない原告からの本件株式の名義書換請求を拒否し、却つて訴外広瀬からの清水育英会準備委員長名義への書換請求に応じたことは決して不当とは言えないし、右拒否に悪意又は重大な過失があるということもできまい。
附言すれば、これより先原告は被告会社の昭和三六年一一月二七日の第二七期定時株主総会の選任決議につき津地裁に右決議取り消しの訴等を提起し、右は昭和三六年(ワ)第一三五号事件として同裁判所に係属し、同裁判所は昭和三八年一月二四日本件株式中一〇万余株については原告の行使した議決権を有効と認め(申請人原告及び訴外溝口、同米倉、被申請人被告会社、同清水育英会間の津地裁昭和三四年(ヨ)第三四号仮処分申請事件における仮処分決定主文第四項により右一〇万余株につき原告らが仮りに共有株主であることが確定され、且つこれら共有者の定める代表者により仮りに議決権行使を許容することが認められたが、右異議事件の判決〔津地裁昭和三四年(セ)第一四三号〕により右主文第四項は取り消され、右部分の仮処分申請は却下され、原告らにおいて控訴し、控訴審〔名古屋高裁昭和三六年(ネ)第五七七号、第五九三号〕において右仮処分決定主文第四項の取り消し及び申請却下部分の異議判決の執行停止を得たため、右仮処分決定の効力が右総会当時いぜん有効であり、右仮処分決定による一〇万余株の議決権の行使を有効と認めた。)、その余の二〇万株の議決権行使を無効とし、結局は一〇万余株についての原告の投票は有効とすべきであつた点において右総会の決議は違法ではあるが、右違法は決議の結果に変動を及ぼさないということを理由に原告の請求を棄却し、その控訴審である名古屋高裁も原告らの控訴を棄却し、右控訴判決(名古屋高裁昭和三八年(ネ)第八三号)は本件総会直前である昭和三八年一〇月一四日に言い渡されていること、なお前記仮処分異議判決の控訴審は昭和三七年九月七日控訴棄却の判決を言い渡し(従つて前記執行停止決定は当然に失効した。)、別に二〇万株についての原告のした議決権行使その他を求める仮処分申請も、津地裁昭和三五年(ヨ)第九号事件として係属し、議決権の行使許容を求める部分のみ却下され、昭和三八年一〇月一四日控訴棄却の判決(名古屋高裁昭和三七年(ネ)第四九一号、昭和三八年(ネ)第二二〇号)があり、これら控訴判決はすべて確定していること以上の事実は成立に争のない甲第一三号証、第一四号証、第一五号証、第一六号証、乙第五号証、第六号証により明らかである。
このように本件総会直前において本件株式につき、議決権行使を仮りに許容する旨の仮の地位の仮処分申請はすべて却下する旨の第一審判決が確定していたという事実もまた被告会社が本件総会において原告の本件株式による議決権の行使を無効とした有力な理由というべきであり、この点をも勘按するといずれにしても被告会社が本件総会において本件株式につき原告の行使した議決権を無効として認めなかつたことは少くとも本件総会の時点においては免責事由が存したと言うことができよう。
四、以上の次第であるから本件総会において被告会社が原告が本件株式につき行使した議決権を無効とし、これを有効投票数に算入しなかつた点については何らのかしも存しないというべく、右議決権の行使が有効であることを前提とする原告の本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山田義光 松本武 辰巳和男)